
配偶者の様子が明らかにおかしく、浮気や不倫を疑ったとき、多くの方が「真実を突き止めたい」「言い逃れのできない確実な証拠を手に入れたい」という思いから、探偵事務所や興信所に浮気調査を依頼されます。
探偵が作成した決定的な調査報告書(ラブホテルへの出入り写真や密会記録など)によって不貞行為の事実が証明され、いざ不倫相手や配偶者に対して慰謝料を請求しようとしたとき、次に直面するのが次のような疑問や切実な悩みです。
「不倫を暴くために150万円もの探偵調査費用がかかった。これは相手に全額支払わせることができるのだろうか」
「そもそも探偵費用は、法律上損害として認められるのか」
「相手から『探偵を雇ったのはあなたの勝手だから払わない』と言われたが、本当に自腹を切るしかないのか」
不貞行為を立証するためには、肉体関係を裏付ける客観的証拠が不可欠であるため、探偵への依頼はやむを得ない出費であったはずです。それにもかかわらず、高額な調査費用をすべて被害者であるご自身が負担しなければならないとすれば、あまりにも不条理だと感じるのは当然のことです。
結論から申し上げますと、裁判実務上、探偵調査費用は一定の要件を満たす場合に限り、不貞行為によって生じた「相当因果関係のある損害」として相手方に請求することが認められています。
ただし、かかった費用が「全額」認められるケースは極めて稀であり、裁判所によって適正な限度額(おおむね支払った費用の1割〜3割程度、金額にして数十万円〜100万円程度)に絞り込まれる傾向にあります。
本コラムでは、不貞慰謝料を請求する側の方に向けて、探偵調査費用の請求に関する基本的な法的枠組みをはじめ、裁判所が請求を認める判断基準、認められやすいケースと認められないケースの違い、調査費用の相場、そして慰謝料と合わせて最大限の回収を図るための実務的戦略について、弁護士の視点から分かりやすく徹底的に解説します。
不貞行為における損害賠償と「探偵調査費用」の法的枠組み

不貞行為(不倫)が行われた場合、被害を受けた配偶者は民法709条(不法行為責任)に基づき、不倫をした配偶者および不倫相手に対して損害賠償請求を行うことができます。
この損害賠償請求において、相手方に請求できる金銭には大きく分けて以下の2種類が存在します。
- 慰謝料(精神的苦痛に対する賠償): 配偶者の裏切りや平穏な婚姻生活の破壊によって被った精神的苦痛を金銭で評価したもの。
- 財産的損害(実費の賠償): 不貞行為が原因で支出を余儀なくされた金銭的損害(探偵調査費用、弁護士費用の一部など)。
「相当因果関係」の壁
探偵調査費用を相手方に賠償させるためには、「不貞行為という違法行為と、探偵費用を支出したこととの間に『相当因果関係』が認められること」が法律上の必須要件となります。
裁判実務では、「不貞の事実を突き止め、損害賠償請求を行うために、探偵を雇って調査を行うことが客観的に必要かつ相当であったか」という厳格な審査が行われます。
相手方からすれば「必ずしも探偵の調査費用は必要なものではなかった」「高額な調査会社を選んだのはそちらの自由だ」という反論が当然予想されるため、単に「領収書があるから全額払え」と主張するだけでは裁判所は認めてくれません。
裁判所が探偵調査費用の請求を「認めるケース」と「認めないケース」

裁判所は、どのような基準で探偵調査費用を「相当因果関係のある損害」として認容し、あるいは否定しているのでしょうか。実際の裁判例の傾向から、明確な分かれ目を整理します。
探偵費用が認められやすいケース(必要性・相当性がある場合)
以下のような状況下で探偵を起用した場合、裁判所はその費用の「必要性」を肯定的に評価します。
① 相手方が不倫を完全に否定・隠蔽し、自力での立証が極めて困難だった場合
配偶者に不信感を抱いて問い詰めても、「ただの友達だ」「残業だった」と頑なに言い逃れをし、スマートフォンに強固なロックをかけるなどして、客観的な証拠を掴むことが著しく困難であった場合です。不貞の責任追及を果たすために、プロの探偵による尾行や張り込みが必要不可欠であったと判断されます。
② 不貞相手の「氏名・住所」が特定できていなかった場合
不倫の事実はなんとなく把握できていても、相手がマッチングアプリで出会った人物であったり、素性を明かさない知人であったりして、「相手が誰なのか」「どこに住んでいるのか」が分からなければ、慰謝料請求通知(内容証明郵便)を送ることも提訴することもできません。相手方の身元を特定するために探偵を利用した場合、その調査の必要性が高く認められます。
③ 提出された調査報告書が、裁判の勝敗を決定づける有力な証拠となった場合
探偵が撮影した「ラブホテルへ2人で出入りする鮮明な連続写真」や「複数回にわたる宿泊の記録」など、裁判官が不貞行為の存在を認定するうえで直接的かつ決定的な証拠(決定打)として機能した場合です。
探偵費用が認められない(否定される)ケース
一方で、以下のような場合には、裁判所から「調査を行う必要性がなかった」「過剰な支出である」と判断され、請求が全面的に棄却される可能性が高くなります。
① 探偵に依頼する前から、すでに十分な不貞の証拠が揃っていた場合
すでに配偶者のスマートフォンから肉体関係を示す明白なLINE履歴や写真が見つかっていたり、配偶者自身が自筆で「〇〇さんと肉体関係を持ちました」と認めた念書が存在したりした場合です。すでに十分な証拠があるにもかかわらず、さらに念には念を入れて高額な探偵を雇ったとしても、「不貞立証のために不可欠な出費とは言えない」として因果関係が否定されてしまいます。
② 調査を行っても不貞の証拠が掴めなかった(空振りに終わった)場合
探偵に数百万円を支払って何日間も尾行してもらったものの、単に複数人で食事をしている姿しか確認できず、決定的な証拠が得られなかった場合、その調査費用を相手方に請求することはできません。
③ 調査内容が過剰・不相当である場合
すでにある特定の日にホテルへ入った証拠を1回押さえているにもかかわらず、慰謝料額を釣り上げる目的で何十日間も執拗に調査を継続させ、調査費用が200万〜300万円と過大に膨れ上がってしまった場合、必要限度を超えた過剰な調査とみなされます。
3. 探偵調査費用の「認容額の相場」|なぜ全額回収できないのか?

多くの方が最も衝撃を受けるのが、「実際に探偵に支払った金額(実費)」と「裁判所が認めてくれる金額」との間に大きなギャップが存在する点です。
裁判実務における認容額の相場
裁判所が損害として認める探偵費用の相場は、実務上「支払った実費の1割〜3割程度」、具体的な金額としては「数十万円(20万〜50万円程度)、高くても100万円前後」にとどまるケースが大半です。
| 実際の支出額(探偵費用) | 裁判所で認められる損害額の目安 |
| 50万円程度(短時間のピンポイント調査) | 10万円〜20万円程度 |
| 100万円〜150万円程度(数日間の尾行・張り込み) | 30万円〜50万円程度 |
| 200万円〜300万円以上(長期間にわたる大規模調査) | 50万円〜100万円程度(上限頭打ち) |
なぜ裁判所は「全額」を認めないのか?
裁判所が探偵費用の全額認容を厳しく制限する理由は、主に以下の2点にあります。
- 探偵会社の料金体系は極めて自由・不透明であること: 探偵費用には法的な標準報酬が存在せず、業者によって数十万円で済むものから数百万円を請求するものまで大きな開きがあります。高額なプランを選んだ結果生じた費用のすべてを加害者に背負わせることは、公平の観点から相当性を欠くと判断されます。
- 過失相殺的・自己責任的な考慮: 被害者の疑念を晴らすための調査という側面や、過剰な日数・人員を投入した自己判断の部分が含まれているため、不貞立証に「客観的に最低限必要であった実費」のみに限定して認めるべきであると考えられています。
探偵費用は「誰に」請求できるのか?

探偵費用を請求する際、「不倫をした配偶者」と「不倫相手」のどちらに請求すべきか、あるいは両方に請求できるのかという点も重要な法的論点です。
不倫相手と配偶者に対する共同不法行為責任
不貞行為は、配偶者と不倫相手の2人による「共同不法行為」です。したがって、不貞慰謝料と同様に、探偵調査費用も2人が連帯して支払う義務(不真正連帯債務)を負います。
被害配偶者は、配偶者に対して全額請求することも、不倫相手に対して全額請求することも法的に自由です。
「離婚するかどうか」による請求戦略の違い
実務上、あなたが配偶者と「離婚するのか」それとも「離婚せず夫婦関係を再構築するのか」によって、探偵費用の回収戦略は大きく異なります。
パターンA:配偶者と「離婚する」場合
配偶者と離婚する場合、探偵費用は「不倫相手」と「配偶者」の双方に対して強気で請求していきます。 離婚に伴う給与・財産の清算や、離婚慰謝料の交渉の中で配偶者側から回収することも可能ですし、不倫相手に対して慰謝料+調査費用の一部を請求していくことも極めて自然な流れとなります。
パターンB:離婚せず「婚姻関係を継続する」場合
配偶者と離婚しない場合、家計が同一であるため、配偶者に対して探偵費用を請求しても世帯内でお金を移動させているだけにすぎません。そのため、ターゲットは必然的に「不倫相手」となります。
ただし、不倫相手だけに慰謝料と探偵費用を請求した場合、不倫相手から配偶者に対して「負担割合分を返せ」と請求される「求償権」の問題が生じます。 裁判ではなく示談交渉(裁判外の話し合い)において、「求償権を放棄させる代わりに、慰謝料と探偵費用を合算したまとまった解決金を支払わせる」というスキームを組み立てることが不可欠となります。
探偵調査費用を最大限回収するための「示談交渉テクニック」

裁判(訴訟)に持ち込んでしまうと、前述のとおり裁判官は裁判基準に縛られるため、探偵費用は数十万円程度に機械的に削られてしまいます。
しかし、裁判外の「示談交渉(任意の話し合い)」においては、法律の厳格な枠組みに縛られることなく、当事者同士が合意すればいくらで示談しても自由です。示談交渉を巧みに進めることで、実質的に探偵費用を含めた高額な金銭を回収することが十分に可能です。
「慰謝料」と「探偵費用」をあえて細かく分けない(一括請求の戦術)
相手方に対して請求書を送る際、「慰謝料150万円、探偵費用150万円、合計300万円」と細かく内訳を書いてしまうと、相手方(または相手の弁護士)から「裁判所の判例上、探偵費用は全額認められない」「調査費用はせいぜい30万円が相場だ」と反論の糸口を与えてしまいます。
そこで実務上は、内訳を細かく分けず、「本件の悪質な不貞行為により被った甚大な精神的苦痛に対する慰謝料および調査実費等として、一括して300万円を請求する」という形で提示します。相手方に決定的な調査報告書を突きつけ、「裁判沙汰になれば恥をかき、周囲にも露呈する」という心理的プレッシャーをかけながら、総額としての高額示談を勝ち取る手法が極めて有効です。
決定的な調査報告書を切り札として使う
プロの探偵が作成した、言い逃れのできない決定的な写真や分単位の記録が存在する場合、相手方は裁判で争っても100%勝ち目がないことを悟ります。 「裁判になれば時間も費用もかかり、敗訴判決によって判決文に不貞の事実が生々しく記録される」という現実を突きつけることで、相手方に「裁判を避けて示談で終わらせたい」という動機を強く抱かせ、探偵費用を実質的に上乗せした金額での早期合意を迫ることができます。
示談書における「清算条項」と「求償権の放棄」
示談が成立した際には、後から不倫相手が配偶者に対して「探偵費用や慰謝料の半分を返せ」と求償してこないよう、「求償権の事前放棄」を明記させます。また、お互いにこれ以上の金銭請求を行わない「清算条項」や「口外禁止条項」を完璧に盛り込んだ合意書を締結し、完全な勝利を確定させます。
これから探偵に依頼する方が注意すべき「失敗しないための鉄則」

もしあなたが、現時点でまだ探偵に依頼しておらず、「これから調査を頼もうか悩んでいる」という段階であれば、無駄な費用の発生を防ぎ、将来の回収可能性を高めるために以下の鉄則を遵守してください。
探偵に丸投げせず、事前に自力で「日時を絞り込む」
探偵の費用は、「調査員の人員数×調査時間(日数)」で決定されます。何の手がかりもないまま「怪しいから1週間ずっと尾行してほしい」と依頼すれば、費用はあっという間に100万〜200万円を超えてしまいます。
- 配偶者の不審な外出パターン(毎週金曜日の夜、特定の出張日など)
- 手帳やカレンダーのメモ、怪しいレシート、クレジットカードの利用履歴
- 自宅を出る時間や帰宅時間の記録
これらを同居中に自力で観察し、「〇月〇日の18時〜23時」とピンポイントで調査日時を指定することで、調査費用を数十万円単位に大幅に抑えることができます。費用が抑えられれば、相手方から全額回収できる割合も実質的に高まります。
契約前に「弁護士に相談」して証拠の要否を確認する
多くの探偵会社は営業熱心であるため、「裁判で勝つためには最低でも3回分のホテルの証拠が必要です」と高額なパック契約を勧めてくることがあります。
しかし、弁護士の視点から見れば、すでに手元にあるLINEの履歴や領収書と組み合わせることで、「ホテルの証拠は1回〜2回あれば十分勝てる」というケースは多々あります。探偵会社と契約書を交わす前に、一度男女問題に精通した弁護士に現状の証拠を見せ、「本当に探偵が必要か」「どのような証拠をあと何回押さえれば勝てるか」のアドバイスを受けることが、費用倒れを防ぐ最大の防御策です。
違法な証拠集めを絶対に避ける
焦るあまり、相手のスマートフォンに無断でGPS監視アプリをインストールしたり、不倫相手の自宅敷地内に無断侵入して盗聴器を仕掛けたりする行為は、プライバシー侵害や住居侵入罪に問われる危険があります。違法に収集された証拠は裁判で証拠能力を否定されるリスクがあるだけでなく、相手方から逆に損害賠償を請求される原因になりますので、絶対に避けてください。
不貞慰謝料・探偵費用請求を弁護士に依頼するメリット

不貞慰謝料および探偵費用の請求は、法的な証拠評価と高度な示談交渉力がすべてを左右します。弁護士へ依頼することにより、以下の絶大なメリットを得ることができます。
- 直接対面・直接交渉の激しい精神的苦痛から解放される: 弁護士が代理人となることで、相手方への連絡窓口はすべて弁護士になります。裏切られた配偶者や不倫相手と顔を合わせたり、電話で激しい口論をしたりする必要は一切なくなります。
- 探偵費用を織り込んだ最大の賠償額を勝ち取る: 裁判例と事案の個別事情を踏まえ、探偵費用を慰謝料本体に実質的に組み込むなど、最も回収額が高くなる戦略的な請求組み立てを行います。
- 言い逃れを許さない証拠の活用: 提出された探偵の調査報告書の法的証拠能力を精査し、相手方の反論(「ホテルに入ったが何もしていない」「既婚者と知らなかった」など)を先回りして完全に論破します。
- 求償権を封じ込める完全な合意書の作成: 再構築を希望する場合でも、将来的に配偶者へ求償権が行使されて家計が損なわれないよう、法的に完璧な示談書を取り交わします。
まとめ

- 探偵調査費用は、不貞の事実を突き止め責任追及するために「客観的に必要かつ相当」であったと認められる場合に限り、損害賠償として相手方に請求できる。
- 裁判所が認める探偵費用の相場は、支払った実費の1割〜3割程度(20万〜50万円程度、上限100万円前後)であることが多く、全額の回収は実務上困難である。
- 相手方に不倫を隠蔽され、自力での立証が不可能であった場合は認められやすいが、すでに証拠が揃っていた場合や過剰な調査を行った場合は否定される。
- 裁判ではなく「弁護士を通じた示談交渉」を選択することで、慰謝料と調査費用を一括請求し、裁判相場を超えた実質的な満額回収を目指す戦略が極めて有効となる。
- 費用倒れを防ぐためにも、探偵と高額な契約を結ぶ前に、まずは弁護士に相談して「本当に探偵が必要か」「どの程度の証拠が必要か」を確認することが重要である。
配偶者の不貞行為に傷つき、そのうえ高額な探偵費用の負担に一人で苦しむ必要はありません。あなたが支払った調査費用と精神的苦痛に対する正当な対価を相手方から確実に回収するためにも、まずは不貞トラブル・慰謝料問題の解決実績が豊富な当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。
この記事を書いた弁護士:弁護士 椎名慧
離婚・不倫慰謝料
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。令和7年登録後、離婚案件を中心に多数の家事事件に対応。依頼者の心情に寄り添った丁寧なヒアリングと、迅速な紛争解決の実務に精通している。夫婦間で激しい感情の対立がある状況において、粘り強い交渉力を発揮し、円満な解決に向けた法的支援に注力。若手ならではの機動力と最新の判例知識を武器に、依頼者の最善の利益確保に邁進している。







