「離婚を考えている」を信じた不倫、慰謝料は払うべき?最高裁の最新判決から学ぶ「夫婦関係の破綻」という境界線
「離婚を考えている」を信じた不倫、慰謝料は払うべき?最高裁の最新判決から学ぶ「夫婦関係の破綻」という境界線

ニュースやSNSで芸能人の不倫報道を目にしない日はありません。世間一般では「不倫=悪、一発アウト」というイメージが強く、既婚者と肉体関係を持てば、いかなる理由があれど巨額の慰謝料を請求されると思われがちです。

しかし、もし相手から「夫婦仲は冷え切っている」「もうすぐ離婚届を出す」「すでに家庭は崩壊している」と言われ、それを信じて交際をスタートさせていたとしたらどうでしょうか。結果として不倫になってしまった側にも、法的な責任はあるのでしょうか。

この問題について、最高裁判所が非常に重要な「新しい判断」を示し、大きな話題となっています。「嘘をつかれて巻き込まれた側」を救うかもしれないこの判決を入り口に、不倫(不貞行為)における慰謝料発生のメカニズムと、「夫婦関係の破綻」という法律上の境界線を分かりやすく解説します。

1. ニュースの概要:最高裁が示した法的責任が無くなる余地

1. ニュースの概要:最高裁が示した法的責任が無くなる余地

まずは、ニュースとなった実際の裁判(最高裁第2小法廷令和8年6月5日判決)のケースを見てみましょう。

事件の経緯

ある男性が、自身が雇用していた既婚女性から「夫と離婚を考えている」という相談を受けていました。女性は離婚届を男性に見せたりするなどしており、男性は「この夫婦はすでに終わっている(破綻している)」と信じて、女性と肉体関係を持ちました。その後、女性は実際に夫と離婚。しかし、元夫は「不倫によって婚姻関係を破壊された」として、男性に対して慰謝料を求めて裁判を起こしたのです。

2審の高松高裁は、男性に支払いを命じました。その理由は以下のようなものです。

「世の中には『離婚した』とか『婚姻関係が破綻している』等と嘘をついて不倫をする人間がたくさんいる。それを簡単にうのみにして肉体関係を持ったのは、注意が足りなかった(過失がある)」

つまり、「嘘を見抜けなかったんだから、慰謝料は払いなさい」という、従来の厳しいスタンスでした。

最高裁の逆転判断:「信じるに足る理由があれば、支払義務が無いとされる可能性がある」

しかし、最高裁判所は、要約すると次のような理由で、この判断をひっくり返しました。

「女性から離婚届を見せられたり、夫から家計を別々にすることを提案された旨を伝えられたり、互いのプライバシーに干渉しないことを提案する旨の夫婦間の電子メールのやり取りを見せられていたりもしていたので、夫婦関係が破綻していると信じるだけの相応の理由(相当な理由)があったとみる余地はある。そこを十分に検討せずに男性の過失を認めたのは誤りである」

最高裁は「だまされた側が一方的に悪いとは言えない」として、審理を高裁に差し戻したのです。この判決は、法律実務に携わる人間の間でも「実態に即した踏み込んだ判断だ」と注目を集めています。

2. なぜ「離婚間近」なら慰謝料を払わなくていいのか?

2. なぜ「離婚間近」なら慰謝料を払わなくていいのか?

一般の方からすると、「既婚者と知っていて付き合ったなら、どんな理由があってもアウトなのでは?」と疑問に思うかもしれません。これを通解するためには、法律がなぜ不倫に対して慰謝料を認めているのか、という「本質」を知る必要があります。

法律が守っているのは「婚姻関係の平和」

民法上、不倫(不貞行為)が違法とされるのは、「不倫によって、円満だった夫婦関係を破壊したから」です。法律は、夫婦がお互いに築いている平穏な共同生活(婚姻共同生活)という権利を守っています。

ということは、裏を返せばこういうロジックが成り立ちます。

すでに夫婦関係が冷え切り、修復不可能な状態(=婚姻関係の破綻)だった場合

そこに第三者が入ってきて肉体関係を持ったとしても、「壊す価値のある平和な関係」が最初から存在しない

したがって、慰謝料を払う必要はない

最高裁は1996年の時点で、「婚姻関係が既に破綻していたときは特段の事情がない限り、不貞相手は慰謝料支払い義務を負わない」という判決を出しています。今回の裁判で問題になったのは、破綻の「事実」そのものよりも、「相手が破綻していると嘘をつき、それを信じてしまった側の責任(過失)」でした。

3. 「過失」の有無を分けるポイント:どこまで信じたらセーフ?

3. 「過失」の有無を分けるポイント:どこまで信じたらセーフ?

今回の最高裁判決は、「『離婚する』と言われたら誰でも免責される」という魔法の免罪符ではありません。ポイントは、「客観的に見て、信じてしまうのも無理はない状況だったか(相当な理由があったか)」という点です。

過去の裁判例や実務の傾向から、どのような事情があれば「過失がなかった(あるいは破綻を信じる相当な理由があった)」と認められやすいのか、主な要素を整理してみましょう。

〇 認められやすいケース(客観的な証拠がある)

長期間の別居: 相手がすでに家を出て何年も別居しており、実質的に単身生活を送っている場合。

具体的な離婚手続きの提示: 今回のニュースのように、記入済みの離婚届を見せられたり、弁護士を通じて離婚協議を進めている書面(内容証明郵便など)を見せられたりした場合。

夫婦間の強烈な拒絶の証拠: 「配偶者からDVを受けて避難している」「裁判で離婚訴訟中である」といった明確な事実がある場合。

✕ 認められないケース(単なる甘い言葉)

「妻(夫)とはうまくいっていない」という口約束だけ: 同居生活を続けており、毎日家に帰っているのを知りながら、口頭の愚痴を真に受けた場合。

SNSやマッチングアプリのプロフィールの盲信: 「独身」「既婚だが離婚調停中」という自己申告のプロフィールだけを信じ、実態を確認しなかった場合。

今回の最高裁のケースでは、「口頭の愚痴」レベルではなく、「離婚届を実際に見せられた」「女性が夫から家計の管理を別々にするように提案された旨を伝えられた」「プライバシーに干渉しないよう提案する旨の夫婦間のメールを見せられた」という客観的なアクションがあったため、「それなら信じてしまっても仕行がない(過失がない)と言えるのではないか」と判断されたのです。

4. もしあなたが「だまされた側」になったら?実務上の防衛策

4. もしあなたが「だまされた側」になったら?実務上の防衛策

もし、交際相手から「もう離婚するから」と言われて信じていたのに、突然その配偶者から内容証明郵便で高額な慰謝料(一般的には100万〜300万円程度)を請求された場合、どのように対応すべきでしょうか。

動転してすぐに「すみません」と謝罪したり、言われるがままの金額を支払う約束をしてはいけません。以下のステップで冷静に対応する必要があります。

① 「信じていたこと」を示す証拠を集める

裁判では、いくら口頭で「だまされていた」と主張しても認めてもらえません。相手が「離婚する」「夫婦関係は終わっている」と言っていた証拠をLINEのトーク履歴、メール、録音データなどから探します。

「もう何年も夫婦の会話がない」
「来月には籍を抜く予定」
「弁護士に相談している」

といった文面は、あなたの「過失(注意不足)」を否定するための要素になります。

② 安易に支払いを認めず、弁護士に相談する

相手の配偶者は、こちらの事情(だまされていたこと)を知りません。単に「自分の家庭を壊した悪質な浮気相手」として怒りをぶつけてきている状態です。

ここに直接反論すると火に油を注ぐことになるため、「既婚者であることは知っていたが、破綻していると信じるに足りる理由があった」という法的な反論は、弁護士を通じて行うのが安全です。

③ だました本人(交際相手)への逆請求(求償権・貞操権侵害)

もしあなたが慰謝料を支払うことになったとしても、あるいは支払いを免れたとしても、嘘をついてあなたをトラブルに巻き込んだ交際相手には重い責任があります。

求償権(きゅうしょうけん)の行使: 支払った慰謝料の一部(または全額)を、だました本人に請求する。

貞操権(ていそうけん)の侵害: 「独身である」あるいは「確実に離婚する」と嘘をついて性関係を結んだ行為自体が、あなたの権利を傷つけたとして、交際相手に対して逆に慰謝料を請求する。

5. まとめ:「言葉の重み」と「事実に目を向けること」の大切さ

5. まとめ:「言葉の重み」と「事実に目を向けること」の大切さ

今回の最高裁判決は、不倫トラブルにおける「だました側の有責性」と「だまされた側の保護」のバランスを適正に評価した、画期的な判断と言えます。

しかし、実務において「過失がなかったこと」を証明するのは依然としてハードルが高い作業です。誰かを好きになったとき、相手の「もうすぐ離婚するから」という言葉は甘く響くものですが、法律の視点から見れば、それは非常にリスクの高い言葉でもあります。

もし周囲でそのような悩みを抱えている方がいたら、まずは「言葉」だけでなく「客観的な事実(別居しているか、具体的な手続きが進んでいるか)」を冷静に見極めるようアドバイスしてあげてください。万が一トラブルに巻き込まれた際は、今回の最高裁の判例を念頭に置きつつ、速やかに法律の専門家に相談することが、自分自身の生活と未来を守る最善の道となります。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
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この記事を書いた弁護士:弁護士 村本 拓哉

離婚・不倫慰謝料

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成26年登録後、離婚案件を中心に多数の案件に対応。財産分与、養育費、婚姻費用、親権、面会交流等、離婚に伴う問題の解決に精通する。交渉、調停、審判、訴訟等、紛争解決のための手続に対応。自ら経験した事件や裁判例に基づき事件の進行方法を検討しつつ、依頼者の話す内容に耳を傾け、より良い解決策がないかを検討することを心がける。