紛争の内容
ご相談にいらしたのは、夫の不貞を疑っておられた女性の依頼者でした。
夫の様子がどこかおかしい。帰宅の時間が変わり、休日の過ごし方が変わり、言葉の端々にも違和感がある。そうした小さな変化が積み重なるなかで、疑いは次第に確信へと近づいていきました。しかし、問いただしても夫は否定するだけで、本当のことはわかりません。
依頼者は、自ら事実を確かめることを決意されました。夫の行動を追い、ある日、夫が特定の女性とホテルに出入りする場面を押さえたのです。信じたくなかった光景を自分の目で確かめることが、どれほどつらいことだったか。その心中は察するに余りあります。それでも依頼者は、ホテルへの出入りという、不貞を示す決定的な事実を自らの手でつかみました。
もっとも、依頼者は夫との離婚を選んだわけではありませんでした。夫婦としての生活は続けていく。そのうえで、家庭に踏み込んできた相手の女性には、きちんと責任を取ってもらいたい。依頼者は、不貞相手に対して慰謝料を請求したいとお考えになり、当事務所に依頼されました。
ただ、証拠を手にしたからといって、それだけで解決できるわけではありません。相手方がどのような態度に出るのか。事実を認めるのか、否定するのか。金額や支払方法をめぐって争いになるのではないか。さらに、離婚に至っていない場合には、婚姻関係が破綻した場合に比べて慰謝料が低めに評価される傾向があります。そして何より、二度と夫と関わらないでほしいという依頼者の切実な願いを、どうすれば確かな形にできるのか。課題はいくつも残されていました。
交渉・調停・訴訟等の経過
当職がまず行ったのは、依頼者が確保した証拠の内容を精査することでした。不貞慰謝料の請求では、肉体関係を伴う交際があったことを示す証拠が重要となります。ホテルへの出入りは、裁判実務上も、肉体関係の存在を推認させる有力な事情とされています。当職は、依頼者が押さえた事実関係を整理し、相手方が言い逃れをする余地がどこにあり得るかを検討したうえで、請求の組み立てを考えていきました。
そのうえで、相手方に対して慰謝料を請求しました。ほどなく相手方にも代理人弁護士が就き、以後は弁護士同士の交渉となりました。
交渉において当職が重視したのは、金額だけではありませんでした。依頼者が求めておられたのは、まず相手方が不貞の事実を認めて謝罪すること、そして夫との関係を確実に断ち切ってもらうことでした。金銭の支払いはもちろん大切ですが、それだけでは依頼者の心は晴れません。とりわけ夫婦関係を続けていく依頼者にとって、相手方と夫との関係が今後も続くようでは、家庭の再建そのものが成り立ちません。当職は、依頼者のこうした思いを交渉の軸に据えました。
客観的な証拠があったことで、交渉は事実の有無をめぐる水掛け論にはなりませんでした。相手方は、多数回にわたり不貞行為に及んだことを認め、謝罪するに至りました。当職は、不貞が一度きりのものではなかったことなどを踏まえ、離婚に至っていない事案であっても相応の慰謝料が認められるべきであると主張し、最終的に慰謝料の額を200万円とすることで合意に至りました。
次の焦点は、支払いの条件です。相手方の資力からすると、一括での支払いは難しい状況でした。そこで当職は、初回に50万円をまとめて支払ってもらったうえで、残りを毎月の分割とする方法を提案しました。あわせて、分割金の支払いを怠った場合には残額を一括で請求できるようにするとともに、期限どおりに分割金を支払い続けた場合には最終回の残金の支払いを免除するという仕組みを設けました。支払いを続けることが相手方自身にとっても得になる形にすることで、最後まで約束が守られる可能性を高めたのです。
さらに当職は、再発を防ぐための条項に力を注ぎました。相手方に、夫との不貞関係を解消したことと、今後これを再開しないことを約束させました。そして、業務上やむを得ない連絡を除き、訪問や面会、電話、メール、SNSなど、直接であれ間接であれ一切の私的な接触をしないこと、夫の連絡先を消去することも約束させました。これらの約束に違反した場合には、慰謝料とは別に、違約金200万円を支払う義務を負うことも定めています。口約束で終わらせず、破った場合の結果を明確にしておくことで、約束に実効性を持たせたのです。
本事例の結末
こうして、相手方との間で合意が成立しました。相手方は不貞行為の事実を認めて謝罪し、慰謝料200万円の支払義務を認めました。初回に50万円が支払われ、残りは分割で支払われていきます。そして、夫との関係を断つこと、私的な接触を一切持たないことが、違約金の定めとともに書面で約束されました。
離婚に至っていない事案では、慰謝料が低めに算定される傾向があるなかで、200万円という金額で合意できたことは、依頼者の受けた精神的苦痛を正当に評価させた結果といえます。訴訟に進むことなく交渉によって解決に至ったことで、依頼者は長期の争いに身を置く負担も避けることができました。
依頼者は、夫との婚姻関係を続けながら、この一件に区切りをつけられました。相手方に事実を認めさせ、謝罪を受け、今後の接触を断つ約束を取り付けられたことは、依頼者がご家庭を立て直していくうえで、大きな支えになったはずです。ご自身の手で事実を確かめるという、つらく勇気の要る一歩を踏み出された依頼者の思いに、法的な形で応えることができた。当職にとっても、心に残る案件となりました。
本事例に学ぶこと
まず、不貞慰謝料の請求において、証拠がいかに重要かということです。本件では、ホテルへの出入りという客観的な事実があったからこそ、相手方は事実を否定できず、交渉は早い段階で条件面の話し合いへと進みました。証拠が乏しければ、相手方が事実そのものを争い、解決までに長い時間を要することも少なくありません。
もっとも、ご自身で証拠を集めることには注意も必要です。相手の後を追う行為は、やり方によってはトラブルに発展したり、法的な問題を生じさせたりするおそれがあります。思わぬ危険に巻き込まれる可能性もあります。また、せっかく集めた資料が、証拠として十分でないこともあります。どのような資料が有効か、どこまでの行動が許されるのかについては、動き出す前に一度専門家に相談しておくことをお勧めします。
次に、離婚をしない場合でも、不貞相手に慰謝料を請求することはできるということです。夫婦関係を続けると決めたからといって、家庭を傷つけた相手の責任が消えるわけではありません。離婚に至らない場合は慰謝料が低めに評価される傾向がありますが、不貞の期間や回数、発覚後の態度などの事情を丁寧に主張することで、相応の金額での解決を目指すことができます。
そして、合意の中身は金額だけではないということです。不貞の事実の承認と謝罪、関係の解消と接触の禁止、そして約束を破った場合の違約金。こうした条項をきちんと書面に盛り込んでおくことで、合意は単なる金銭の精算を超えて、これからの家庭を守るものになります。夫婦関係を続けていく方にとっては、なおさら重要な点です。
また、相手方に一括で支払う資力がない場合でも、請求を諦める必要はありません。初回の支払いと分割払いを組み合わせ、支払いを怠った場合の取り決めや、きちんと支払い続けた場合の一部免除といった仕組みを工夫することで、現実に回収できる形の合意をまとめることができます。
配偶者の不貞が疑われるとき、あるいはすでに事実をつかんでいるとき、どう動けばよいのか迷われる方は少なくありません。離婚するかどうか決めかねている方も、夫婦関係を続けると決めた方も、どうか一人で抱え込まず、グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、皆様のお気持ちに寄り添いながら、望む形での解決に向けて力を尽くしてまいります。
弁護士 時田 剛志





