紛争の内容
Aさんは、妻のスマートフォンに男性との親密なLINEのやり取りが残されているのを発見しました。
文面からは男女の親密な関係が強く疑われたものの、ラブホテルへの出入り写真や肉体関係を直接裏付ける決定的な証拠はありませんでした。
Aさんは強い精神的苦痛を受けており、「相手男性に責任を取らせたいが、証拠が十分でない中でどのように進めるべきか」、「何より妻と相手男性の関係を断ち切らせ、二度と接触してほしくない」という強い希望をお持ちになり、当事務所へご相談・ご依頼いただきました。
交渉・調停・訴訟等の経過
弁護士が代理人として相手男性に対し受任通知を送付し、婚姻共同生活の平和を侵害したことに対する慰謝料請求と、妻に対する接触禁止を求めました。
相手男性からの回答は、「親しく連絡を取り合っていたことは認めるが、肉体関係(不貞行為)はない」というものでした。しかし一方で、「既婚者と知りながら誤解を招く軽率な行動を取り、ご夫婦の関係にひびを入れてしまったことについては大変申し訳なく思っている」と、非を認めて真摯に謝罪する姿勢を示しました。
裁判(訴訟)で高額な慰謝料を認めてもらうためには、肉体関係を推認させる確固たる証拠が必要です。裁判で争えば証拠不足を理由に請求が棄却されるリスクや、解決までに長期間を要するリスクがありました。
Aさんと方針を協議したところ、最優先事項は「多額の慰謝料を求めて長期戦を戦うこと」ではなく、「相手男性が反省し、今後一切妻に関わらない確約を取ること」でした。
そこで、方針を裁判基準での金額争いから「実効性のある接触禁止条項の確保」と「謝罪を伴う早期示談」へとシフトし、相手方との条件交渉を進めました。
本事例の結末
以下の条件で示談(合意書の締結)が成立しました。
- 謝罪の受諾:相手男性が軽率な行動により夫婦関係を脅かしたことについて、Aさんへ正式に謝罪する。
- 慰謝料(解決金)の支払い:相手男性がAさんに対し、解決金として数十万円を一括で支払う。
- 接触禁止条項:相手男性は今後、私用での通話、LINE・メール・SNSでの連絡、直接の面会など、いかなる方法によっても妻に接触してはならない。
- 違約金条項:万が一接触禁止条項に違反した場合は、別途違約金を支払う。
合意書の締結後、約束通り解決金が支払われ、妻との接触も完全に断たれたことで、平穏な生活を取り戻す形で早期解決に至りました。
本事例に学ぶこと
①「依頼者が最も重視する目的」に応じた柔軟な交渉戦略
相手男性と徹底的に争って高額な慰謝料を目指すのか、それとも関係を断ち切らせて夫婦関係の再構築や平穏な日常を取り戻すことを優先するのかによって、取るべき戦略は大きく異なります。本件では後者を最優先したことで、証拠の弱さを補い、泥沼化を避けて迅速な合意を取り付けることができました。
②接触禁止条項の実効性を担保する違約金設定
口頭や当事者間だけの「もう会わない」という約束は、後から反故にされるリスクがあります。弁護士を通じて「違反した場合はペナルティ(違約金)を課す」という法的な縛りを明確に合意書へ盛り込むことが、将来の接触に対する極めて強い抑止力となります。
弁護士 安田 伸一朗




