
夫の裏切りを知ったとき、その悲しみや怒りは計り知れません。さらに、不貞の相手もまた家庭を持つ人間だったとしたら、その心境はより複雑なものとなるでしょう。
今回は、W不倫の被害に遭われた専業主婦の方が、離婚できない苦しい状況の中から、当事務所のサポートにより、不貞相手から当初提示額の5倍となる150万円の慰謝料と謝罪を獲得した逆転劇をご紹介します。
① 紛争の内容:W不倫の発覚と、身動きが取れない妻の苦しみ
ご依頼者様(Aさん・女性・専業主婦)は、夫Bさんの不貞行為に気づきました。相手は、夫Cさんがいる既婚女性X。いわゆる「ダブル不倫」でした。
事態はさらに複雑化します。相手女性Xの夫Cさんが、Aさんの夫Bさんに対して慰謝料を請求してきたのです。Aさん夫婦の関係は、この不貞の発覚を機に完全に冷え切り、破綻の危機に瀕していました。
Aさんは離婚も考えましたが、長年専業主婦であったため経済的な自立が難しく、すぐに家を出て生活を始めることもできない状況でした。「離婚したい、でもできない…」という葛藤の中、Aさんは、せめてもの償いとして、そして今後の生活のためにも、家庭を壊した張本人である不貞相手Xさんに対して慰謝料を請求することを決意し、当事務所にご相談に来られました。
② 交渉の経過:弁護士による「証拠の小出し」という戦略的交渉
当職がAさんの代理人として、不貞相手Xさんに内容証明郵便で慰謝料を請求すると、Xさんは直ちに弁護士を立ててきました。そして、相手方弁護士から送られてきた回答書の内容は、Aさんの心をさらに傷つけるものでした。
「離婚も別居もしていないのだから、損害は軽微。慰謝料として支払えるのは30万円が限度です」
この低額かつ侮辱的な回答に対し、当職は徹底的に戦う方針を固め、粘り強い交渉を開始しました。
交渉術1:精神的苦痛の具体的主張
まず、「離婚していない=損害が小さい」という相手方の形式的な理屈を崩すため、Aさんが受けた精神的苦痛がいかに甚大であるかを具体的に主張しました。不眠や食欲不振に悩まされていること、信頼していた夫に裏切られ、平穏な家庭生活が根底から覆された絶望感などを詳細に伝え、「夫婦関係は破綻状態にあり、離婚に至っていないこと自体がAさんにとってさらなる苦痛となっている」と反論しました。
交渉術2:「悪質性」を暴く段階的な証拠提示
次に、手元にある証拠の提示方法を工夫しました。全ての証拠を一度に見せるのではなく、相手の出方を見ながら段階的に提示する「小出し」の戦略をとったのです。
- 第1段階: まずは、夫BさんとXさんの不貞行為を立証する基本的な証拠を提示。
- 第2段階: 相手方がなおも「一時の過ち」などと主張し、30万円の低額回答に固執する中、決定的なカードを切りました。それは、不貞発覚後、BさんとXさんが口裏合わせをしようと画策していたLINEのやり取りです。
この証拠を突きつけ、「これは単なる過ちではありません。不貞が発覚した後も、反省するどころか、被害者であるAさんをさらに欺こうとする、極めて悪質な行為です。裁判になれば、この悪質性は慰謝料を大幅に増額させる要因となります」と強く主張しました。
この「悪質性」の立証は、相手方弁護士に「このままでは裁判で不利になる」と判断させるのに十分な効果がありました。ここから、交渉の流れは大きくこちらに傾き始めました。その後も、何度も書面や電話でやり取りを重ね、少しずつ、しかし着実に請求額に近づけていきました。
訴訟を覚悟するという依頼者の態度も大切です。
③ 本事例の結末:当初提示の5倍!150万円の一括払いと謝罪で決着
粘り強い交渉の結果、相手方はついに非を認め、以下の内容で示談が成立しました。
- XさんはAさんに対し、慰謝料として150万円を一括で支払う。
- 示談書に「Xは、Bとの不貞関係によりAさんに多大な精神的苦痛を与えたことを認め、深く謝罪いたします」という謝罪の文言を明記する。
Aさんは、当初提示の5倍となる慰謝料を受け取ることができ、何よりも相手に非を認めさせ、書面で謝罪させたことで、心のつかえが少し取れたと、涙ながらに話してくださいました。
④ 本事例に学ぶこと:諦めない交渉と弁護士の戦略が慰謝料を増額させる
本事例から学べることは以下のとおりです。
- 「離婚しない=慰謝料が低い」は安易に受け入れない
離婚や別居は慰謝料の金額を決める一要素に過ぎません。夫婦関係が破綻状態にあるなど、精神的苦痛が甚大であることを立証できれば、離婚に至っていなくても高額な慰謝料請求は可能です。 - 証拠の出し方一つで交渉は変わる
手持ちの証拠をいつ、どのように提示するかは、交渉の行方を左右する重要な「駆け引き」です。弁護士は、状況を冷静に分析し、最も効果的なタイミングでカードを切る戦略を立てます。
裁判の証拠として提示はせず、相手に嘘をつかせるという戦略もあります。裁判で嘘をつかせてから、その嘘を暴く証拠を示すことで、その証言は一挙に崩壊します。裁判官は、その方の証言を信じなくなるでしょう。 - 「悪質性」の立証が金額を上げる鍵
不貞行為そのものだけでなく、不貞期間の長さ、発覚後の対応(嘘、隠蔽、口裏合わせ、開き直りなど)は、慰謝料を増額させる重要な要素です。これらの証拠もしっかりと集めておきましょう。 - 弁護士はあなたの強力な「盾」であり「剣」
相手が弁護士を立ててきた場合、個人で法的な交渉を行うのは極めて困難です。弁護士は、あなたの代理人として、相手の主張の弱点を突き、法的な根拠に基づいて粘り強く交渉します。金銭的な解決だけでなく、謝罪文言を盛り込むなど、あなたの心の回復に繋がる解決を目指します。
夫の裏切りに苦しみ、どうしていいか分からず、一人で悩んでいる方は、どうか諦めないでください。あなたの受けた傷にふさわしい償いをさせるため、私たちが専門家として全力でサポートいたします。まずは一度、ご相談ください。
弁護士 時田 剛志