慰謝料1500万円の請求が認められたケース

以前、不貞行為の慰謝料についてのコラムを書いた際、日本での最高額1500万円の慰謝料が認められた裁判例(東京高判平成元年11月22日判時1330号48頁)があることを取り上げました。

裁判例上、おおむね100万円から300万円くらいでの合意に達することが多い中、1500万円もの高額の慰謝料が認められたケースというのはどのようなものであったのでしょうか。今回は、東京高判平成元年11月22日の内容について検討してみたいと思います。

本件の事案は以下の通りです。

X(夫)とY(妻)は、昭和12年に結婚し、子どもができなかったため、昭和23年、Z(女)の子2人を養子にしました。

その後、昭和24年になって、Yは、XとZが不貞関係にあることを知りましたが、Xは不貞行為を反省・中止することなく、それどころか、XZがいっしょになって、Yに対して離婚を強要しました。
Yが離婚を拒んだため、XYは不仲になり、これをきっかけに、XYは別居を開始し、他方XZは同棲を開始し、その後XZ間には子ども2人ができてXは子どもらを認知しました。

XはYに対して離婚請求訴訟を提起しましたが、Xは敗訴し、裁判上離婚は認められませんでした。
それにもかかわらず、Xは、Yに対し、別居するに際して当時24万円の建物を与えたほかには、何らの精神的・物質的慰謝をすることなく、XZは同棲生活を続けたまま、40年もの月日が流れました。

この間、XはZと同棲し、子ども二人が生まれ、会社を経営して裕福な生活を営むようになりました。
他方、Yは、Yの実兄の家に身を寄せ、ずっと単身生活を送ってきました。

このような長い月日が流れたあと、XはYに対し、改めて離婚請求訴訟を提起し、離婚は認められることになりました。
Yは、XZが同棲生活を続ける中でも、自らがXの妻であると考えてずっと耐えてきました。

それにもかかわらず、不貞行為を行って別居生活を長期間送ってきたXの請求により、XYの離婚が認められ、Yの最後の自負すら奪われることになってしまいました。
この時、Xは77歳、Yは73歳にまで達していました。

このように、本裁判例の事案は、夫婦がそれぞれ精神的・経済的格差のある環境下での別居生活を40年もの長期間を続け、挙げ句の果てには、70代になって、法律上の夫婦関係という、妻の最後の拠り所を奪うという、極限的事情の下で、判断されたものです。

1500万円もの高額の慰謝料が認められたのは、妻にとって文字通り筆舌に尽くしがたい苛烈な事情があったからです。

本裁判例の事案を踏まえて、今直面してている事件において、本当に高額の慰謝料請求が認められるのか、再考する必要があるように思います。

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